「売上は幻想、キャッシュは現実」この言葉の意味を、僕が骨の髄まで理解するキッカケになった失敗談。

支払日を3日後に控え、通帳の残高が、息子の小遣いより少ない8万円になったあの夜のことを、今でも鮮明に覚えています。
オフィスには、僕一人。
消し忘れたパソコンのモニターだけが煌々と光り、壁には右肩上がりの売上グラフが虚しく映し出されていました。
「売上は順調なのに、なぜだ…?なぜ、金がないんだ…?」
胃が焼け付くような感覚と、心臓を氷水で冷やされるような焦り。
答えの出ない問いを、ただひたすら暗闇の中で繰り返していました。
もし、今あなたが当時の僕と同じように、「売上は立っているのに、なぜか手元にお金が残らない…」という見えない恐怖に苛まれているのなら、この記事はあなたのためのものです。
こんにちは。
キャッシュフローの死線を越えた、不死鳥社長こと坂上 浩一と申します。
かつて僕も、あなたと同じように「売上」という数字の魔力に囚われ、会社の本当の生命線である「キャッシュ」の流れから目をそらし、倒産の淵を彷徨いました。
この記事でお伝えするのは、小難しい経営理論ではありません。
僕が3,200万円の負債と、たった8万円の預金通帳を握りしめた地獄の底で学んだ、泥臭く、生々しい、たった一つの真実です。
読み終えた時、あなたは「売上」という名の幻想から解放され、二度と資金繰りで眠れない夜を過ごすことのない、「会社の血液」を守るための確かな知恵を手にしているはずです。
目次
順風満帆の航海が一転。売上という名の蜃気楼に惑わされた日々
父の背中が見せた「黒字倒産」の影と独立の誓い
僕の原点は、親父が営んでいた小さな印刷工場にあります。
親父は真面目な職人で、仕事の腕は確かでした。
しかし、ある日突然、最大の取引先が倒産。
そのあおりを受け、親父の会社は損益計算書の上では黒字だったにもかかわらず、運転資金がショートし、廃業に追い込まれました。
いわゆる「黒字倒産」です。
帳簿上は利益が出ているのに、会社が潰れる。
子供心に、その理不尽さが全く理解できませんでした。
ただ、全ての終わりを悟り、工場の隅で小さく肩を落とす父の背中だけが、目に焼き付いて離れませんでした。
「どんな嵐が来ても、従業員とその家族を守れる会社を自分の手で作りたい」
その想いを胸に、僕は32歳で独立。
Webデザインとマーケティング支援の会社を立ち上げました。
「売上さえあれば大丈夫」という、致命的な勘違い
幸いにも、事業は順調に拡大しました。
寝る間も惜しんで働き、クライアントからの信頼を勝ち取り、売上グラフは面白いように右肩上がりに伸びていきました。
僕は、毎月送られてくる試算表の「売上高」と「営業利益」の数字を見ては、悦に入っていました。
「よし、今月も目標達成だ。この調子なら大丈夫だ」と。
それが、僕のキャリアで最も致命的な勘違いでした。
当時の僕は、損益計算書という「会社の成績表」ばかりを眺め、キャッシュフロー計算書という「会社の心電図」を完全に無視していたのです。
売上が立ち、利益が出ていれば、会社は安泰だと本気で信じ込んでいました。
静かに会社を蝕む病魔:入金と支払いのサイクルのズレ
しかし、水面下では静かに、しかし確実に、会社の寿命を削る病魔が進行していました。
それは、「入金」と「支払い」のサイクルのズレです。
僕たちの仕事は、納品してから実際にお金が振り込まれるまで、2ヶ月かかるのが当たり前でした。
一方で、外注パートナーへの支払いや、事務所の家賃、社員の給料といった支払いは、毎月容赦なくやってきます。
これは、まるで穴の空いたバケツで水を運ぶようなものでした。
売上という名の「蛇口」からどれだけ勢いよく水(利益)を注いでも、手元のバケツ(会社)に空いた穴(支払いの先行)から、現金がどんどん漏れ出していく。
僕は、蛇口から出る水の量にばかり気を取られ、バケツの穴が日に日に大きくなっていることに、全く気づいていなかったのです。
崖っぷちの夜。通帳残高8万円が教えてくれた残酷な現実
一本の電話。主要クライアントからの突然の契約打ち切り
その日は、突然やってきました。
一本の電話。
相手は、売上の4割を占める最大のクライアントでした。
「申し訳ない、坂上さん。先方の都合で、今進んでいるプロジェクトが全てストップになった。支払いも、一旦止めさせてもらうことになる」
電話を切った瞬間、血の気が引いていくのが分かりました。
入ってくるはずだった、数百万の売掛金。
それを元手に組んでいた、翌月の支払計画。
全てが、一瞬で崩れ去りました。
この時、僕は初めて痛感したのです。
僕が今まで信じてきた「売上」という数字は、ただの約束手形に過ぎない。
相手の都合一つで、一瞬にして紙切れになる、不確かな蜃気楼なのだと。
銀行、そして親戚からの「NO」。プライドが砕け散った瞬間
僕は、必死で走り回りました。
メインバンクに追加融資を申し込みましたが、「直近の業績では難しい」と、にべもなく断られました。
藁にもすがる思いで、頭を下げた親戚からは、「お前も親父と同じ道を辿るのか」と冷たい言葉を浴びせられました。
「社長は弱音を吐いてはいけない」
「金の相談だけは、誰にもしてはいけない」
そんなくだらないプライドが、僕をどんどん孤独な崖っぷちへと追い込んでいきました。
誰にも相談できず、一人で問題を抱え込み、事態は悪化の一途をたどりました。
「売上は幻想、キャッシュは現実」という言葉が、骨身に染みた夜
そして、冒頭の夜を迎えます。
支払日まで、あと3日。
通帳残高、8万円。
オフィスの冷たい床に横たわりながら、会社の登記簿を握りしめました。
「ここで終わりか…」
親父の背中が、脳裏に浮かびました。
あの時、理解できなかった「黒字倒産」の本当の恐怖が、津波のように僕の全身を襲いました。
売上はある。利益も出ている。
でも、金がない。
だから、会社は死ぬ。
これほどまでにシンプルで、残酷な現実があるでしょうか。
この夜、「売上は幻想、キャッシュは現実」という言葉が、綺麗事の経営格言ではなく、僕の骨の髄まで刻み込まれる、血の通った教訓となったのです。
最後の命綱「ファクタリング」。僕が掴んだ一本の光
顧問税理士からの「最後の手段ですが…」という提案
夜が明け、半分諦めかけていた僕の携帯が鳴りました。
心配してくれた、顧問税理士の先生からでした。
事情を話すと、先生は少し黙り込んだ後、こう言いました。
「最後の手段ですが…坂上さんの会社には、まだ入金待ちの請求書がありますよね?それを現金化する方法があります」
それが、僕と「ファクタリング」との出会いでした。
未来の自分を救う「時限式の現金カプセル」
正直、最初は意味が分かりませんでした。
融資ではない?借金にもならない?
先生は、当時の僕でも分かるように、こう説明してくれました。
「坂上さんが持っている、まだ入金されていない請求書(売掛金)は、いわば未来のあなたを救うための、時限式の現金カプセルなんです」
「ファクタリング会社は、そのカプセルが爆発する(入金される)のを待てないあなたの代わりに、手数料を引いた額で先に買い取ってくれる。ただそれだけです」
借金ではない。
未来の入金を、前倒しで受け取る権利の売買。
それは、銀行から見放され、信用情報もズタズタだった僕に残された、唯一の光でした。
500万円の即日資金化。久しぶりに「味のする飯」が食えた日
僕は、すぐにファクタリング会社に連絡を取りました。
事情を説明すると、担当者は親身に話を聞いてくれ、まだ入金が確定していた別のクライアントへの請求書500万円分を、即日で買い取ってくれることになったのです。
数時間後、会社の通帳に振り込まれた数字を見た時の感覚を、僕は一生忘れないでしょう。
それは、単なるお金ではありませんでした。
会社を、従業員を、そして僕自身の人生を、地獄の淵から引き上げてくれた命綱そのものでした。
その日の夜、僕は近くの定食屋で、生姜焼き定食を食べました。
何日もまともに食事が喉を通らなかった僕が、久しぶりに「味のする飯」を食べることができた日でした。
地獄から生還して学んだ、二度と会社を殺さないための3つの鉄則
あの崖っぷちからV字回復を果たした今、僕は胸を張って断言できることがあります。
会社を殺すのは、赤字でも、売上不振でもない。
経営者の、キャッシュフローに対する無知と、たった一つの慢心です。
僕が泥水をすすって学んだ、二度と会社を殺さないための鉄則を、最後にあなたに贈ります。
鉄則1:会社の血液の流れ(キャッシュフロー)を絶対に止めない
人間の体から血液がなくなれば死ぬように、会社もキャッシュがなくなれば死にます。
損益計算書の利益という「筋肉量」に一喜一憂するのではなく、キャッシュフロー計算書や資金繰り表という「血圧や心拍数」を毎日チェックしてください。
会社の血液が、今どこから入ってきて、どこへ流れ出ていき、どこで滞っているのか。
その流れを把握することこそが、経営者の最も基本的な、そして最も重要な仕事です。
鉄則2:助けを求めることは、経営者の最も重要な「仕事」だ
かつての僕のように、「社長は孤独だ」「弱音を吐くな」という呪いに縛られないでください。
それは、ただの時代遅れの精神論です。
本当に苦しい時、どうしようもなくなった時、専門家や信頼できる仲間に「助けてくれ」と叫ぶこと。
それは恥ではなく、会社と従業員を守るための、経営者の最も重要な「仕事」の一つです。
一人で抱え込んでも、ろくなことになりません。
鉄則3:プライドより、会社と従業員の生活が100倍大事
銀行から融資を断られること。
親戚に頭を下げること。
ファクタリングのような、これまで知らなかった資金調達法に頼ること。
それらを「恥ずかしい」と感じるプライドは、今すぐゴミ箱に捨ててください。
プライドより、会社と従業員の生活が100倍大事です。
どんな手段を使ってでも、どんなに泥臭くても、会社の血液であるキャッシュを守り抜き、存続させること。
それこそが、経営者に与えられた、唯一絶対の責任なのですから。
まとめ
この記事でお伝えしたかったことは、シンプルです。
- 売上とキャッシュは全くの別物。利益が出ていても会社は潰れる。
- 会社の命綱は、売上ではなくキャッシュフローの流れそのもの。
- ファクタリングは、融資が絶望的な状況でも会社を救う有効な選択肢になり得る。
- 孤独を気取らず、プライドを捨て、「助けて」と叫ぶ勇気が未来を切り拓く。
諦めるのは、全てのカードを切り尽くしてからでも遅くありません。
もし今、あなたが絶望の淵にいるのなら、まずは机の中にある請求書の束を全部出してみてください。
それは、ただの紙切れではありません。
あなたが血と汗で勝ち取った、未来のあなた自身を救うための「埋蔵金」です。
大丈夫、その痛みは僕が一番よく分かりますから。
あなたは決して、一人ではありません。
社長、あなたの会社は、まだ死んでいない。