「手数料、高いな…」契約書を前に僕が悩んだ3時間と、それでもサインを決意できた本当の理由。

支払日を3日後に控え、会社の通帳残高が、息子の小遣いより少ない8万円になったあの夜のことを、今でも鮮明に覚えています。
オフィスには、僕一人。
静寂を切り裂くのは、自分の荒い呼吸と、壁にかかった時計の秒針の音だけ。
目の前の机には、顧問税理士から「最後の手段です」と渡された一枚の契約書。
ファクタリングという、聞き慣れない金融サービスの契約書でした。
そこに書かれた「手数料」の文字と、信じられないほどの金額を見た瞬間、胃が焼け付くような感覚に襲われたんです。
「…高いな」
思わず漏れた声は、誰に聞かれるでもなく、がらんとしたオフィスに虚しく響きました。
もし、今あなたがこの記事を読んでいるのなら、きっとあの夜の僕と同じように、出口のない暗闇の中で、たった一人で戦っているのかもしれません。
大丈夫、その痛みは僕が一番よく分かりますから。
これは、キャッシュフローの死線を越えた僕、坂上浩一が、絶望の淵で掴んだ一本の命綱の話です。
そして、高い手数料を前に3時間悩み抜いた僕が、なぜサインを決意できたのか、その本当の理由をお話しします。
この記事は、机上の空論を振りかざす経営指南書ではありません。
泥水をすすって得た、僕の実体験から生まれた、あなたのための「処方箋」です。
目次
会社の血液が止まる音。僕がファクタリングの契約書を握りしめた夜。
もともと僕は、大手建材メーカーで働く、安定が約束されたサラリーマンでした。
しかし、父が営んでいた小さな印刷工場が、取引先の連鎖倒産で黒字のまま廃業。
肩を落とす父の背中を見て、「どんな嵐が来ても、従業員とその家族を守れる会社を自分の手で作りたい」と、32歳で独立を決意しました。
Webデザインとマーケティングの会社は、ありがたいことに順調に成長しました。
でも、順調だったからこその慢心があったんです。
「売上さえあれば大丈夫」と、会社の血液であるはずのキャッシュフローを軽視していました。
そのツケは、ある日突然、牙を剥きました。
主要クライアントの突然の契約打ち切り。
売上は立っているのに、入金が止まる。
まさに、父の会社を潰した「黒字倒産」の危機でした。
銀行に追加融資を断られた時の、あの冷たい視線。
プライドを捨てて頭を下げた親戚から、「お前にはがっかりした」と言われた時の、全身から血の気が引く感覚。
八方塞がりとは、このことでした。
通帳残高は、みるみる減っていき、ついに8万円に。
オフィスの床で会社の登記簿を握りしめながら、「ここで終わりか…」と夜を明かした日もあります。
そんな僕に、顧問税理士がそっと教えてくれたのが、ファクタリングでした。
未来に入金される予定の売掛金(請求書)を、手数料を払って買い取ってもらい、即座に現金化するサービスです。
藁にもすがる思いで連絡し、審査を経て提示された契約書。
そこに、希望の光が見えた気がしました。
しかし、その光を打ち消すほどの、重い現実も書かれていたのです。
「手数料50万円…?」目の前が真っ暗になった3時間の葛藤。
契約書に書かれていた売掛金の買取額は、500万円。
そして、その下に記されていた手数料の額は、約50万円でした。
率にして、10%。
この数字を見た瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走りました。
50万円。
この金があれば、オフィス賃料の2ヶ月分が払える。
従業員の給料だって…。
様々な思いが頭を駆け巡り、目の前が真っ暗になりました。
銀行の融資なら、金利はもっと低いはずだ。
これは、足元を見られた、法外な手数料なんじゃないか。
疑念と焦りが、僕の心を蝕んでいきました。
契約書を握りしめたまま、ただ時間だけが過ぎていく。
1時間、2時間…。
僕は、机の引き出しから、過去のキャッシュフロー計算書を引っ張り出しました。
数字の羅列を眺めながら、冷静に、ただひたすら冷静に考えようと努めました。
なぜ、この手数料なのか。
僕が申し込んだのは、取引先に知られずに資金化できる「2社間ファクタリング」というものでした。
これは、ファクタリング会社にとって未回収リスクが高い分、手数料が割高になる傾向があります。
当時の相場を考えれば、決して法外な数字ではないのかもしれない。
それでも、納得できない。
まるで、自分の会社の未来を、安売りしているような気分でした。
時計の針が深夜2時を回った頃、僕は一つの結論にたどり着きます。
それは、絶望の中から見つけ出した、小さな、しかし確かな希望の光でした。
なぜ僕は「高い手数料」を払ってでも、サインを決意できたのか?
3時間に及ぶ葛藤の末、僕は契約書にサインをしました。
手数料の重さは、ずっしりと両肩にのしかかったままです。
しかし、僕の心は不思議と、晴れやかでした。
なぜなら、僕は思考を切り替えることができたからです。
これは「コスト」ではない。
会社を救うための「投資」なのだと。
僕が、高い手数料を払ってでもサインを決意できた理由は、大きく3つあります。
1. 理由1:僕は「お金」ではなく「時間」を買っていた
銀行融資の金利が低いことは、百も承知でした。
しかし、銀行の審査には数週間、いや、数ヶ月かかることもあります。
僕に残された時間は、あと3日しかありませんでした。
ファクタリングは、最短即日で現金を手にできる。
僕が50万円で買おうとしていたのは、お金そのものではなく、会社が生き延びるための「時間」だったのです。
この時間に比べれば、50万円という投資は、決して高くない。
そう覚悟を決めました。
2. 理由2:失いかけた「信用」を取り戻すための保険だった
もし、支払いが1日でも遅れればどうなるでしょう。
従業員からの信頼を失い、取引先からの信用も地に落ちる。
一度失った信用を取り戻すのは、新規事業を立ち上げるより何倍も難しい。
この50万円は、僕がこれまで築き上げてきた、そしてこれからも築いていく「信用」という無形の資産を守るための、いわば保険料だったのです。
会社にとって、信用こそが最も大切な資本。
それを守れるなら、安いものだとさえ思えました。
3. 理由3:これは「コスト」ではなく「未来への投資」だと覚悟した
そして、これが最も重要な理由です。
僕は、この500万円をただの延命資金にするつもりは毛頭ありませんでした。
この資金を元手に、経営体制を徹底的に見直し、必ずV字回復させてみせる。
この50万円の手数料は、その未来を実現するための、必要不可欠な投資なんだと。
そう自分に誓ったのです。
諦めるのは、全てのカードを切り尽くしてからでも遅くありません。
僕は自分にそう言い聞かせ、震える手で、契約書に会社の印鑑を押しました。
それは、敗北のサインではありません。
反撃の狼煙を上げるための、覚悟のサインでした。
ファクタリングは劇薬だ。だからこそ、使い方を間違えてはいけない。
おかげさまで、僕はあの危機を乗り越え、3年で借金を完済し、会社をV字回復させることができました。
ファクタリングは、間違いなく僕の会社の命綱でした。
しかし、声を大にして言いたい。
ファクタリングは、あくまで応急処置です。
根本的な治療ではありません。
もし、あの時の僕にアドバイスできるなら、そして今、同じように悩んでいるあなたに伝えたいことがあります。
それは、後悔しないための、3つのチェックポイントです。
1. 契約書の内容を、一言一句、血眼になって確認する
手数料の数字だけでなく、債権譲渡登記の費用など、他に費用がかからないか。
そして何より、「償還請求権(しょうかんせいきゅうけん)」という文字がないかを確認してください。
これは、もし売掛先が倒産した場合、あなたが代わりに支払う義務を負うという特約で、実質的には「貸付」です。
貸金業登録のない業者がこれを行うのは違法です。
2. 相場を著しく超える手数料を提示する業者とは、絶対に契約しない
僕が利用した2社間ファクタリングの手数料相場は、一般的に8%~18%と言われています。
これを大きく超える手数料を提示されたら、それはあなたの弱みに付け込む悪徳業者かもしれません。
焦る気持ちは痛いほど分かりますが、必ず複数の会社を比較検討してください。
3. 資金調達後の「再建プラン」を、同時に考える
なぜ、資金繰りが悪化したのか。
その根本原因を解決しなければ、また同じことの繰り返しになります。
ファクタリングで得た「時間」を使って、入金サイクルや支払いサイトの見直し、経費の削減など、具体的な再建プランを必ず立ててください。
ファクタリングは劇薬です。
正しく使えば命を救いますが、使い方を間違えれば、会社をさらに深い沼に沈めることにもなりかねません。
社長、あなたの会社は、まだ死んでいない。
この記事を、最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
今、手数料の高さに悩み、契約書を前に手が止まっているあなたは、それだけ真剣に、会社と、従業員と、その家族の未来を考えている証拠です。
その責任感と愛情こそが、経営者にとって最も尊い才能だと、僕は思います。
通帳の残高が、あなたの価値ではありません。
目の前の請求書の山は、負債ではなく、未来のあなたを救うための「時限式の現金カプセル」です。
僕も今でも、月末に通帳の残高が大きく減ると、心臓が「ヒュッ」と音を立てる感覚に襲われることがあります。
あの夜の恐怖が、まだ少しだけ残っているんです。
でも、その度に思い出すようにしています。
絶望の淵で、たった一人で戦っている社長は、他にもいる。
そして、僕の記事が、その誰かの心を少しでも照らすことができるかもしれない、と。
あなたは、決して一人ではありません。
もし、どうしようもなく苦しいなら、まずは机の中にある請求書を全部出してみてください。
それが、あなたの会社に眠る「埋蔵金」です。
そして、それがあなたの未来を切り拓く、最初の武器になります。
社長、あなたの会社は、まだ死んでいない。
諦めるのは、全てのカードを切り尽くしてからでも、決して遅くはありませんから。